ろんだん佐賀

ダイバーシティと障害者雇用

2020.11.16

潜在能力活かす職場環境を

11月15日からの1か月間は「佐賀県障害者月間」である。「令和2年版 障害者白書」によると、高齢化及び障害に対する認知度の上昇により障害者人口は年々増加し、全国民のうち約7.6%が何らかの障害を有しているとされる。また、企業の障害者の雇用率(雇用する労働者のうち障害のある人の割合)は段階的な引き上げが行われ、2021年3月には2.3%、つまり300人の雇用者がいる企業では、うち7人が障害者であることが義務付けられるようになった。実際の雇用状況をみても、直近の障害者雇用数、雇用率はともに16年連続で過去最高を更新している。今後もこの傾向は続くと思われ、障害を持つ人と働くことは特別ではなくなってきている。今日はダイバーシティの観点から、障害者雇用について考えてみたい。

障害者に対し、「できることが限られる」という先入観を持ってしまう人はいまだに多い。テレビ番組で目にする障害者は重症な人が多いが、本来、障害には多くの種類があり、重度から軽度、そして健常者までグラデーションな地続きになっている。私も障害者の方と働くことになった時、「どのような仕事を頼めばいいのか」と身構えたことがあるが、いざ働いてみると、ITスキルが高かったり、手先が器用であったり、自分にないものをたくさん持っていて頼りにしている。考えてみれば、人間は誰しもが不完全であり、それぞれが「得意・不得意」「向き・不向き」を持つ。その中で、楽しく仕事をし、高い成果を出すためには、パズルのピースを合わせるように互いの欠点を補完しあうことが必要だ。障害者ができないことは健常者がカバーする。障害者が自分の長所を存分に発揮するために合理的配慮が必要なら、上司はその準備をする。その繰り返しで、障害者が組織の一員としてだけではなく、戦力となっていくのだと思う。また、必要な合理的配慮も最初は障害の程度や種類に応じた個別対応となるが、数を蓄積させていけば会社全体の働きやすさをアップデートすることができる。例えば、画一的な就労形態に適応が難しい障害者に柔軟な働き方を提示することはコロナ禍で増えた在宅勤務制度に、精神障害のある人に職場定着のための継続的なケアを行うことは、障害のない社員の離職防止に応用できるであろう。障害者を活かすことは、全ての従業員の潜在能力を活かす職場環境作りに繋がるのだ。

最後に紹介したいのは、「バリアバリュー」という言葉だ。障害(バリア)を強みとし価値(バリュー)に変えていくという理念である。歴史を紐解けば、電話はもともと聴覚障害者のためのコミュニケーション機器開発の過程で発明された。キーボードの源流の一つは上肢障害者が文字を書く手段の開発だといわれている。自動運転技術も「視覚障害者が運転できる車の開発」が最初の目的であった。このように、障害者のニーズから生まれ、育てられた技術が、社会におしなべて普及した例は枚挙にいとまがない。障害者は私たちの生活を豊かにするイノベーションに一番近いところにいるのである。

これからは、障害者雇用を義務や負担と捉える時代ではなくなるであろう。しかしそれを理解している健常者はまだ一握りだ。社会に隠れた多くの障害者が、社会を支える側として活躍できる社会の実現のために自分には何ができるのか。「佐賀県障害者月間」に考えてみるのもいいのかもしれない。

2020年11月15日付の佐賀新聞 掲載

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